こんにちは、介護しよ.netのhiroです。
今回のテーマは、特別養護老人ホーム(以下、特養)の退所です。
「一度特養に入所できたら、最期までずっといられるの?」
「介護度が下がったら、退所させられる?」
「長期間入院すると、特養には戻れないの?」
このような不安を感じているご本人やご家族は、少なくありません。
まずは、現役で特養の生活相談員をしている私が、実際に対応した事例を一つご紹介します。
なお、個人が特定されないよう、年齢や家族構成などの一部を変更しています。
要介護5から要介護3になり、家族が退所を心配した事例
現在特養に入所されているA様の入所相談に、長男様ご夫妻がいらっしゃいました。
ご家族から介護の状況を伺うと、次のようなお話がありました。
- 長男様は仕事で不在にする時間が長く、主な介護者は長男様の妻だった
- A様が転倒するのではないかと、常に不安を感じていた
- 二世帯住宅の2階でA様が生活しており、物音がするたびに様子を見に行っていた
- 夜間も転倒が心配で、十分に眠れない状態が続いていた
- 介護負担によって夫婦関係にも影響が出始めていた
- 家族だけで介護を続けるのは難しく、どうしても特養へ入所してほしいと考えていた
相談後、タイミングよく空床が出たため、A様は特養へ入所することになりました。
その後、介護保険の更新に伴う認定調査が行われ、要介護度が入所時の要介護5から要介護3に変更されました。
認定結果を知ったご家族は、すぐに面会に来られ、次のように話されました。
「要介護3になったと聞いて、家族全員が驚いています。一番心配なのは、介護度が下がったことで退所になってしまわないかということです。
家族全員、自宅で再び介護することは難しいと考えています。このまま特養で生活を続けることはできますか?」
特養への新規入所は、原則として要介護3以上の方が対象です。A様は要介護3であったため、介護度を理由に退所を求められる状況ではないことを説明しました。厚生労働省の資料でも、2015年4月以降、特養への新規入所者は原則として要介護3以上とされています。
説明を聞いたご家族は、ひとまず安心されて帰られました。
特養へ入所するのは、決して簡単なことではありません。
長期間入所を待ち、家族が介護の限界を迎え、ようやく入所できたというケースもあります。
そのため、
「介護度が下がったら退所になるのではないか」
「入院が長引いたら、特養に戻れなくなるのではないか」
「施設から退所してほしいと言われたら、断れないのではないか」
と心配するご家族も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、特養を退所することになる代表的なケースについて、現役の特養相談員の視点から解説します。
特養は一度入所したら最期までいられる?
特養は、常時介護が必要な方が生活する施設であり、一般的には長期間の入所を前提としています。
看取りまで対応している施設も多いため、「終身利用できる施設」と説明されることもあります。
しかし、法律上、どのような状況でも必ず最期まで入所し続けられると保証されているわけではありません。
本人や家族が退所を希望した場合だけでなく、長期入院や医療依存度の上昇、利用料の滞納、重大な契約違反などにより、契約が終了することがあります。
具体的な契約終了条件は、各施設の利用契約書や重要事項説明書によって異なります。
そのため、最終的には入所している施設の契約書を確認することが重要です。
特養を退所する9つのケース
1.本人や家族が退所を希望した場合
本人や家族から退所を申し出るケースです。
例えば、次のような場合があります。
- 自宅へ戻る
- 別の特養へ転所する
- 有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅へ移る
- 介護医療院や医療機関へ移る
- 家族の近くにある施設へ転所する
退所日は、本人・家族と施設が相談したうえで決定します。
ただし、本人に意思決定能力がある場合は、家族の希望だけでなく、本人の意思を十分に確認する必要があります。
2.入所者が亡くなった場合
入所者が亡くなった場合は、利用契約が終了します。
一般的には「退所」というよりも、「死亡による契約終了」として扱われます。
特養で看取りを行う場合もあれば、入院先の病院で亡くなる場合もあります。
3.特養では対応できない医療管理が必要になった場合
入所後に病状が変化し、特養の看護・医療体制では安全に対応できない状態になることがあります。
例えば、次のようなケースです。
- 継続的な入院治療が必要になった
- 高度な医療管理が必要になった
- 頻回な急変があり、常時医師の管理が必要になった
- 施設では実施できない医療処置が継続的に必要になった
ただし、「医療的な対応が難しいので、すぐに退所してください」と一方的に契約を終了できるわけではありません。
厚生労働省の運営基準では、施設が適切なサービスを提供することが困難な場合、適切な病院や診療所、介護老人保健施設、介護医療院などを紹介する措置を速やかに講じることが求められています。
実際には、医師、看護師、生活相談員、介護支援専門員、ご家族などが話し合い、今後の療養場所を検討します。
4.暴力やハラスメントが続き、安全を確保できない場合
本人や家族による行為によって、ほかの入所者や職員の安全を確保できない場合、契約解除が検討されることがあります。
例えば、次のような行為です。
- ほかの入所者や職員への暴力
- 脅迫や著しい暴言
- 性的な加害行為
- 危険物の持ち込み
- 悪質なカスタマーハラスメント
- ほかの入所者の居室への侵入
- 施設の設備や他人の物品の故意による破損
ただし、暴力や介護拒否があったからといって、直ちに退所になるわけではありません。
特に、認知症や精神疾患、せん妄、体調不良、薬の影響などが原因になっている可能性もあります。
施設には、次のような対応が求められます。
- 行為が起きる原因の分析
- 医療機関への受診
- ケア方法の見直し
- 居室や生活環境の調整
- 職員の対応方法の統一
- 家族や行政との協議
- 施設内での安全対策
厚生労働省も、ハラスメントがあったことだけで、すべてのケースがサービス提供を拒否できる「正当な理由」に該当するわけではないとしています。
一方で、事案によってはサービスの継続が困難となる場合があり、その際にも次の施設を紹介するなど、必要な措置を講じることが求められています。
5.重大な契約違反が続いた場合
利用契約書や重要事項説明書に定められた重大な禁止行為が続いた場合、契約解除が検討されることがあります。
例えば、次のようなケースです。
- 入所時に重要な病歴や生活状況を意図的に偽っていた
- 施設内の重大な禁止行為を繰り返した
- 施設の設備を故意に破損した
- 法律や契約内容を超えた不当なサービスの要求を続けた
- 契約の継続に必要な手続きに全く応じなかった
ただし、「施設からの申し出を聞き入れない」というだけでは、退所理由として広すぎます。
入所者には、ケアについて意見を述べたり、望まない介護を拒否したりする権利があります。
例えば、
- 入浴を拒否した
- 食事を食べなかった
- 起床を拒否した
- 家族が施設のケア方針に反対した
- 施設へ改善を求めた
というだけで、通常、直ちに契約解除になるものではありません。
施設側には、本人や家族が拒否・反対している理由を確認し、話し合いを重ねることが求められます。
6.利用料の滞納が続いた場合
施設利用料の滞納が続き、支払いの催告を行っても支払いや相談に応じない場合、契約解除になることがあります。
契約書に「3か月以上の滞納が続いた場合」などと記載している施設もあります。
しかし、法律によって一律に「3か月滞納したら必ず退所」と決められているわけではありません。
一般的には、次のような手順が取られます。
- 本人や家族へ未払いを連絡する
- 支払いの催告を行う
- 分割払いなどの支払い方法を相談する
- 生活保護や自治体制度の利用を検討する
- 成年後見制度や日常生活自立支援事業の利用を検討する
- 身元引受人や成年後見人などへ連絡する
- 期限を定めた最終催告を行う
- それでも支払いや相談に応じない場合に契約解除を検討する
本人に支払い能力がない、家族が本人のお金を管理していて支払っていない、認知症によって金銭管理ができないなど、滞納の原因はさまざまです。
そのため、生活困窮などの事情を確認せず、支援制度の調整も行わないまま、直ちに退所を求めることは適切ではありません。
7.長期入院となり、特養へ戻れる見込みがない場合
入所者が入院し、長期間特養へ戻れない場合、契約終了になることがあります。
よく「3か月入院すると特養を退所になる」といわれますが、3か月を超えた瞬間に必ず退所になるという全国一律のルールではありません。
運営基準では、おおむね3か月以内に退院することが明らかに見込まれる場合、本人や家族の希望を考慮し、必要に応じてベッドを確保するなど、退院後に円滑に再入所できるよう配慮することが求められています。
実際には、次の点を総合的に確認します。
- 退院できる見込みがあるか
- 退院予定日はいつか
- 退院後に特養で生活できる状態か
- 退院後に必要となる医療処置
- 施設の看護・医療体制で対応できるか
- 本人や家族が再入所を希望しているか
- 施設の空床やベッドの運用状況
- 利用契約書にどのように定められているか
そのため、単純に「入院から90日を超えたので、今日で契約終了です」となるとは限りません。
一方で、退院の見込みが立たない場合や、退院後も特養では対応できない医療管理が必要な場合には、病院や介護医療院などへの移行を検討することになります。
8.在宅生活が可能となり、本人も退所を希望した場合
特養は長期入所を前提とした施設ですが、制度上は、入所者が自宅で生活できるかどうかを継続的に検討することになっています。
心身の状態が改善し、本人が自宅へ戻ることを希望し、生活環境も整えられる場合には、在宅復帰を支援します。
退所に向けては、次のような点を確認します。
- 本人の意思
- 家族の介護力
- 自宅の環境
- 訪問介護やデイサービスなどの利用
- 福祉用具や住宅改修の必要性
- 医療機関との連携
- 居宅介護支援事業所との連携
ただし、介護度が軽くなったという理由だけで、施設が一方的に退所させるものではありません。
本人と家族の意向を確認し、退所後の住居や介護サービスを調整したうえで、円滑な退所支援を行う必要があります。
9.施設が廃止・休止される場合
施設そのものが運営を継続できなくなるケースです。
例えば、次のような場合があります。
- 法人の解散
- 施設の廃止や長期休止
- 建物の建て替え
- 指定の取消し
- 災害によって運営を継続できなくなった
- 経営上の事情によって閉鎖することになった
この場合も、入所者を突然退所させて終わりということではありません。
法人や自治体などが連携し、入所者や家族へ説明したうえで、転所先を調整する必要があります。
介護度が下がると特養を退所になる?
特養への新規入所は、原則として要介護3以上が対象です。
そのため、要介護5から要介護4、要介護3へ変更された場合は、原則として、その介護度だけを理由に退所になることはありません。
一方、更新認定によって要介護1または要介護2になった場合は、施設や市町村への確認が必要です。
要介護1・2でも、認知症や家族の状況、在宅サービスの整備状況などにより、在宅生活が著しく困難であると判断される場合には、特例的な取り扱いが検討されることがあります。厚生労働省の指針でも、要介護1・2の方について、特養以外での生活が著しく困難な事情を考慮する仕組みが示されています。
したがって、介護度が下がったからといって、すぐに自宅へ戻らなければならないとは限りません。
まずは施設の生活相談員や介護支援専門員へ相談しましょう。
「家族が施設の方針に従わない」だけでは退所理由にならない
施設側から退所や契約解除が検討されやすいケースを整理すると、主に次の4つです。
- 特養の医療・介護体制では安全に対応できない
- 重大な危険行為や契約違反があり、対応しても改善しない
- 利用料の滞納が続き、催告や相談にも応じない
- 長期入院となり、特養での生活へ戻れる見込みがない
一方で、次のような理由だけで、直ちに退所になるとは限りません。
- 介護を拒否することがある
- 家族が施設の意見に従わない
- 職員との相性が悪い
- 介護に手がかかる
- 認知症の症状がある
- 施設へ意見や苦情を伝えた
- 要介護度が下がった
指定介護老人福祉施設には、正当な理由なくサービスの提供を拒んではならないという基準があります。
施設側から契約解除を求められた場合は、次の点を確認しましょう。
- 契約解除の具体的な理由
- 利用契約書のどの項目に該当するのか
- これまで施設が行った対応
- 契約継続のために検討した方法
- 退所期限
- 次の生活場所の候補
- 市町村や地域包括支援センターへの相談状況
納得できない場合は、施設だけで話を終わらせず、市町村の介護保険担当窓口や都道府県の国民健康保険団体連合会などへ相談することも検討してください。
まとめ:まずは利用契約書を確認しよう
特養は長期間生活することを想定した施設ですが、どのような状況でも必ず入所を継続できるわけではありません。
特養を退所する主なケースは、次のとおりです。
- 本人や家族が退所を希望した
- 入所者が亡くなった
- 特養では対応できない医療管理が必要になった
- 暴力やハラスメントによって安全を確保できなくなった
- 重大な契約違反が続いた
- 利用料の滞納が続いた
- 長期入院となり、特養へ戻れる見込みがなくなった
- 在宅生活が可能となり、本人も退所を希望した
- 施設が廃止・休止された
ただし、利用料の滞納や長期入院に関する取り扱いは、すべての施設で一律ではありません。
最も確実なのは、入所している施設の利用契約書や重要事項説明書にある、次の項目を確認することです。
- 契約の終了
- 事業者からの契約解除
- 入院時の取り扱い
- 利用料を滞納した場合の対応
内容が分からない場合は、施設の生活相談員や介護支援専門員に、
「どのような場合に退所や契約解除になりますか」
「長期入院になった場合、契約はどのように扱われますか」
と確認しておくと安心です。
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